フランスの面影とアジアン・ノスタルジーが交差するベトナム

時を旅する街並み

東南アジアの熱気と活気に包まれた国、ベトナム。

しかし、その街並みをじっくりと眺めてみると、アジアの他の国々とは少し異なる、独特の甘やかでノスタルジックな空気が漂っていることに気づきます。

それは、19世紀後半からのフランス植民地時代に持ち込まれた西洋建築と、何世紀にもわたり育まれてきた東洋の伝統が優美に溶け合っているから。

時代も文化も飛び越えて、歩くだけで「時を旅する」ようなベトナムの街並みの魅力をご紹介します。

 

 

 

 

「東洋のパリ」に咲くコロニアル建築の華——ホーチミン

かつてサイゴンと呼ばれ、「東洋のパリ」と称えられたベトナム最大の都市・ホーチミン。高層ビルが立ち並ぶモダンな街並みのあちこちに、まるでヨーロッパの街角から切り取ってきたかのような美しく壮大な建築が姿を現します。

 

その筆頭が、鮮やかなコロニアルイエローの壁が印象的な「サイゴン中央郵便局」です。19世紀末に建てられたこの建物は、パリのエッフェル塔を設計したギュスターヴ・エッフェルが関わったことでも知られており、アーチ状のアーケード天井はヨーロッパの古いターミナル駅を思わせるクラシカルな空間です。

 

そのすぐそばには、赤いレンガが美しい「サイゴン大聖堂(聖母マリア教会)」が佇みます。建築資材のすべてをフランスから輸入して建てられたという大聖堂は、南国の青空に映え、アジアにいることを一瞬忘れてしまうほどの異国情緒を醸し出しています。

 

黄色い壁とランタンが織りなす幻想世界——ホイアン

ホーチミンから北へ飛び、中部沿岸に位置する古都「ホイアン」へ足を伸ばすと、風景は一変します。

 

16世紀~17世紀、大規模な貿易港として栄えたホイアンは、かつて多くの日本人や中国人が暮らしていた歴史を持ちます。街全体がユネスコ世界文化遺産に登録されており、ノスタルジックな黄色い壁の木造家屋がどこまでも続いています。

 

ホイアンが最も魅力を増すのは、日が落ちてからの時間です。

夕暮れとともに街中に吊るされた色とりどりのランタンに明かりが灯ると、旧市街全体が温かく幻想的な光に包まれます。どこか懐かしい南国のやわらかな夜風。ノスタルジックな映画のワンシーンに入り込んだかのような、ロマンチックな時間が流れます。

 

千年の歴史と東洋医学の風情を味わう――ハノイ36古街

北部にある首都ハノイには、さらに深く渋い歴史の地層が眠っています。その象徴が「ハノイ36古街」と呼ばれる旧市街エリアです。

千年以上も昔から職人や商人が集まってできたこの地域では、「銀通り」「シルク通り」「竹製品通り」といったぐあいに、通りごとに扱う専門商品が決まっていました。

 

中でも味わい深いのが、東洋医学(漢方)の薬局が立ち並ぶエリアです。一歩足を踏み入れれば、生薬やハーブの独特で香ばしい香りが漂い、薬草を細かく刻む音や古びた引き出しの音が響きます。そこには、逞しくも温かい東洋の歴史が今も息づいている場所です。

 

アジアの力強さと、西洋の華やかさが紡ぐ物語

フレンチ・コロニアルの格式高い美しさ、世界遺産の街が魅せる幻想的な光、そして古都に流れる伝統の香り。

 

ベトナムの街並みは、複雑な歴史の波を飲み込みながら、それらをすべて自らの魅力へと昇華させてきました。ただ綺麗なだけではない、多層的な歴史と人々の暮らしが交差する情景こそが、私たちがベトナムの街に強く惹きつけられる理由なのかもしれません。