コート上の数字、パラスポーツの「持ち点制度」とは?
パラスポーツの試合を観ていると、ふと不思議に思う瞬間があります。
「なぜ、あのスーパーエースをベンチに下げてしまうのだろう?」
「なぜ、体格も障害の度合いも全く違う選手たちが、同じコートで同時に戦っているのだろう?」
その答えであり、パラスポーツを最もエキサイティングにしている最大の秘密が「クラス分け」と「持ち点制度」です。
一見、公平性を保つための事務的なルールに思えるこの制度。しかしその実態は、監督たちが知略を尽くし、1点刻みの最適解を奪い合う、コート上の「究極の心理戦(チーミング)」なのです。
1.コート上の数式:すべては「14.0点」のなかに
パラスポーツ、特に車いすバスケットボールや車いすラグビーでは、選手一人ひとりに障害の程度に応じた「持ち点」が与えられます。
車いすバスケを例に見てみましょう。
選手の持ち点は、障害の最も重い「1.0点」から、最も軽い「4.5点」まで、0.5点刻みで分類されます。
そして、ルールによって「コート上の5人の合計点を14.0点以内に収めなければならない」と厳格に定められています(車いすラグビーは4人で8.0点以内)。
どんなに世界最高峰のスター選手を5人揃えたくても、全員が4.5点であれば合計22.5点となり、完全にルール違反。つまり、全員がエースの「ドリームチーム」は最初から作れない仕組みになっているのです。
2.「ハイポインター」の爆発力と、「ローポインター」の職人技
この制限のなかで、監督たちはどのように最強の5人を選ぶのでしょうか。
そこには、障害の特性を「役割」へと昇華させた、美しい掛け算が存在します。
・ハイポインター(持ち点が高い選手:3.0~4.5点)
腹筋や背筋が機能し、車いすの上で高く身体を伸ばせる選手たちです。高い打点からのシュート、圧倒的なスピードを武器に、チームの「得点源(エース)」としてコートを支配します。
・ローポインター(持ち点が低い選手:1.0~2.5点)
体幹の機能が制限されているため、片手での精密な操作や、高さのあるプレーは得意ではありません。しかし、彼らの真骨頂は「ディフェンス」と「空間支配」にあります。
ローポインターたちは、持ち前のチェアワークを駆使し、相手のエースの進路にミリ単位で車いすを滑り込ませます。自らが強固な「壁(スクリーン)」となり、相手を足止めすることで、味方のハイポインターにフリーでシュートを打たせるスペースを作り出すのです。
障害が重い選手(ローポインター)の職人技のようなアシストがなければ、障害が軽い選手(ハイポインター)は1点も取れない――これこそが、この競技の真髄です。
3.1点をめぐる指揮官のチェス:交代枠のドラマ
合計「14.0点」というパズルは、試合中も刻一刻と形を変えます。
エースのハイポインター(4.5点)が疲れたから交代させたい。しかし、ベンチにいる代わりのエース(4.0点)を入れると、今度は全体の合計点が14.5点になってしまい、ルールをオーバーしてしまう...。
「エースを休ませるために、ディフェンスの要であるローポインターも同時に交代させ、全体のパズルを組み替えよう」
監督たちは試合の流れを読みながら、瞬時に頭のなかで足し算と引き算を繰り返し、2人、あるいは3人を「同時交代」させる戦術を仕掛けます。ベンチから複数の選手が同時に立ち上がったとき、そこには指揮官の「次の一手」という強烈なメッセージが隠されているのです。
まとめ
パラスポーツにおける「クラス分け」とは、単にハンディキャップを公平にするための仕組みではありません。むしろ、異なる個性を組み合わせ、チームとしての戦闘力を最大化させるための「戦略のプラットフォーム」です。
エースの華麗なゴールに興奮したあとは、ぜひその足元を支えたローポインターの動きや、ベンチの点数パズルの行方に注目してみてください。
「違い」を「強み」に変え、14.0点という限られたキャンパスに最強の戦術を描き出す。その緻密な頭脳戦を知ったとき、あなたのパラスポーツ観戦は、間違いなく10倍熱くなるはずです。