ベトナムの世界遺産

時を旅するベトナム―暮らしの中に息づく世界遺産

日本から飛行機で数時間。

ベトナムと聞くと、フォーやバインミー、活気のある餅並みを思い浮かべる人が多いかもしれません。

けれどこの国には、観光地として切り取られた写真だけでは語れない、静かに時代を積み重ねてきた場所があります。

王朝の記憶を残す古都、密林に眠る遺跡、今も人の暮らしと共存する建築群。

ベトナムの世界遺産は、「過去の遺物」ではなく、「今も息をしている風景」なのです。

 

 

フエの建造物群

フエは、ベトナム最後の王朝・グエン朝が都を置いた歴史ある古都です。

フォン川を挟んだ旧市街には、王宮や寺院、皇帝の廟などが残り、ベトナムで最初に世界遺産に登録されました。

グエン朝は1802年に建国され、植民地支配や戦争の時代を経ながらも、約140年にわたって続いた王朝です。その中心となったのがフエでした。

旧市街の王宮は中国の紫禁城を手本に造られ、壮麗な門や即位式が行われた建物などが並びます。

また郊外には、歴代皇帝の廟や寺院が点在し、中国風、西洋風など、皇帝ごとの時代背景や好みを反映した多様な建築様式をみることができます。

フエの世界遺産は、建物を通して王朝の歴史と時代の変化を感じられる場所です。

 

 

 

ハロン湾

ハロン湾は、ベトナム北部に位置する国内有数の景勝地です。約1,500平方キロメートルの湾内に、2,000以上の奇岩や島々が点在し、その景色は水墨画のようだと称されています。

これらの島々は、石灰岩地帯が長い年月をかけて浸食されて生まれたもので、闘鶏島や象島など、自然が作り出した独特な形が見どころです。龍の伝説が残るほど、幻想的な雰囲気に包まれています。

ハノイからのアクセスも良く、クルーズで奇岩群を巡ったり、鍾乳洞見学や新鮮な海産物を楽しんだりすることができます。世界遺産に登録されて、以降、国内外から多くの観光客が訪れる人気スポットとなっています。

 

 

 

古都ホイアン

ホイアンは、ベトナム中部トゥボン川の河口近くにある、歴史ある港町です。16~17世紀に東西交易の拠点として栄え、日本からの朱印船も往来し、多くの日本人が暮らしていました。

町には日本、中国、ベトナムの文化が混ざり合った建築が残り、日本人が架けた日本橋(来遠橋)や、貿易商の家などが今も見られます。その後、日本人町は衰退しますが、中国系の建物が町並みに彩りを加えました。

徒歩で巡れる小さな旧市街には、ランタンに照らされたノスタルジックな風景が広がり、昔の面影を感じながら散策を楽しめる場所です。

 

 

 

ミーソン聖域

ミーソン遺跡は、ベトナム中部ホイアンから内陸へ約40㎞の山に囲まれた盆地にある、チャンパ王国の聖地です。2世紀末に興り、交易で栄えたチャンパ王国が、ヒンドゥー教の神々、とくにシヴァ神を祀るために築きました。

遺跡には、接着剤を使わずに焼成レンガを積み上げた70以上の祠堂が残り、高度な建築技術と文化水準を今に伝えています。長い年月の中で自然に包まれた神秘的な景観も特徴です。

現在も発掘調査が続けられており、多くの謎をひめたまま、1999年に世界遺産に登録された歴史的遺跡です。

 

 

 

フォンニャ-ケバン国立公園

フォンニャ=ケバン国立公園は、ベトナム中部ドンホイから車で約1時間の場所にある世界遺産です。広大な敷地の大部分が原生林で覆われ、数多くの動植物が生息する自然豊かな地域として知られています。また、アジア最古級のカルスト地形が広がり、300以上の鍾乳洞が確認されています。

園内には、地下河川をボートで進むフォンニャ洞窟をはじめ、ティエンソン洞窟や「天国の洞窟」と呼ばれるティエンドゥオン洞窟など、見どころとなる洞窟が点在しています。特に巨大な鍾乳石が連なる景観は圧巻です。

2009年には世界最大級の洞窟として知られるソンドン洞窟が発見され、その後も新たな洞窟の調査が続いています。2025年には登録範囲が拡張され、ラオスの国立公園んも加わり、注目が高まる世界遺産です。

 

 

 

タンロン王城遺跡

タンロン宮城跡は、ベトナムの首都ハノイにある世界遺産です。2002年の発掘調査で、ベトナム最初の民族王朝が都を置いた宮城跡であることが明らかになり、2010年に世界遺産に登録されました。

1010年に李朝が都を定めて以来、王朝が交代しても遷都は行われず、約800年にわたり政治の中心として栄えました。その後、戦争の影響を受けましたが、発掘によって歴代王朝の遺構が重なり合う貴重な歴史遺産であることが分りました。

現在は一部が一般公開され、門や基壇、砲弾の痕などから、ベトナムの長く激動した歴史を感じることができます。

 

 

 

チャン・アン

チャン・アン名勝・遺跡群は、ハノイから南へ約100㎞のニンビン省にある世界遺産です。タムコックやチャン・アンの景勝地、洞窟寺院のビクドン、古都ホアルーの遺跡などから成り、「陸のハロン湾」とも呼ばれています。

石灰岩の山々と川が織りなす景観の中を、小舟で巡るのが大きな特徴です。周辺の洞窟からは約3万年前の人類の生活跡も見つかっており、自然だけでなく考古学的価値も高い地域です。

また、近くのホアルーは10~11世紀に都が置かれた場所で、歴史的建造物が今も残ります。こうした自然美と歴史が評価され、ベトナム初の複合遺産として2014年に世界遺産に登録されました。

 

 

 

 

まとめ

王朝の都として栄えた街、交易で文化が交差した港町、太古の人々の痕跡を残す洞窟や聖域。ベトナムの世界遺産は、単に保存された過去ではなく、自然や人々の暮らしと重なり合いながら、今も静かに時を刻み続けています。その土地に立ち、風景の中を歩くことで、歴史は年表ではなく「体感するもの」へと変わります。ベトナムを旅することは、時代を超えて受け継がれてきた記憶にそっと触れる旅なのかもしれません。