毎日の食卓から祝祭——イギリス家庭料理の風景
イギリス料理と聞くと、質素で地味なイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、家庭の食卓に目を向けてみると、そこにはボリュームたっぷりの朝食や、工夫に富んだパイ料理、素朴で温かみのあるスイーツが並んでいます。
毎日の食事はしっかり食べ、行事の日には家族が集まって特別な料理を囲む。
イギリスの家庭料理には、効率だけではない「暮らしを楽しむ知恵」が息づいています。
朝から満足感のある一皿、残りものを生かしたデザート、そして一年で最も大切にされるクリスマスの食卓。
イギリスの家庭料理は、日常と非日常をやさしくつなぐ存在なのです。
一皿で大満足の朝食
イギリスの朝食として知られているのが、「イングリッシュブレックファースト」です。
目玉焼きやスクランブルエッグなどの卵料理を中心に、ベーコン、ソーセージ、マッシュルーム、ベイクドトマト、ポテトなどを一枚の皿にたっぷり盛り付けます。これに薄切りのトースト、ジャムやマーマレード、紅茶やコーヒー、ジュースに合わせるのが定番で、朝からしっかりエネルギーを補給できる食事として親しまれています。
多彩なバリエーションを持つパイ
パイ料理は、イギリスを代表する家庭料理のひとつです。
イギリスでは、必ずしもパイ生地を使った料理だけを指すわけではなく、具材の上を何かで覆って焼いたり、蒸したりした料理も広く「パイ」と呼ばれています。
代表的なのが、羊飼いを意味する「シェパーズパイ」で、味付けした羊のひき肉の上にマッシュポテトを重ねてオーブンで焼き上げます。牛ひき肉を使った場合は「コテージパイ」と呼ばれます。
また、魚介類が豊富な国らしく、タラやサーモンをホワイトソースで煮込み、マッシュポテトで覆って焼く「フィッシュパイ」も家庭でよく作られる一品です。
手軽で素朴なスイーツ文化
イギリスでは、大人から子どもまで甘いものが好まれています。
夏になると、スーパーや青果店にはさまざまなベリー類が並び、それらをたっぷり使った「サマープディング」が登場します。ベリーの果汁が染み込んだパンに果実を詰め込んだこのデザートは、夏を代表するお菓子として知られています。
ほかにも、食パンにカスタードを染み込ませて焼く「ブレッド&バタープディング」や、余ったスポンジケーキや果物、カスタードを重ねて作る「トライフル」など、食材を無駄にしない工夫から生まれたスイーツが多くあります。
さらに、イチゴとメレンゲ、生クリームを混ぜるだけの「イートンメス」や、リンゴの上にクランブル生地をのせて焼く「アップルクランブル」など、家庭で気軽に作れるデザートも豊富です。そのため、イギリスではお菓子作りを楽しむ男性も珍しくありません。
行事食——クリスマスに集う食卓
イギリスでは、12月25日の午後に家族全員が集まり、特別なクリスマスの食事を楽しみます。この時間は一年の中でもとくに大切にされており、家族団らんの象徴ともいえるひとときです。
クリスマスに欠かせない料理が、七面鳥やカモ、ガチョウなどを丸ごと焼き上げる豪華なロースト料理です。これに加えて、「クリスマス・プディング」と呼ばれる伝統的なデザートも食卓に並びます。
クリスマス・プディングは、10月ごろからドライフルーツの準備を始め、長い時間をかけて作られるお菓子です。手間のかかる工程が多いため、近年では家庭で作るよりも、店で購入する人が増えています。
まとめ
海と牧草地に育まれた食材を生かし、紅茶とともに日常を楽しみ、行事の日には家族で特別な食卓を囲む――イギリスの食文化は、派手さよりも「続いてきた暮らしの形」を大切にしてきました。
ボリュームのある朝食、工夫に満ちた家庭料理、無駄を出さない素朴なスイーツ、そして年に一度のクリスマスのごちそう。
それら一つひとつが、イギリスの人々の価値観や暮らし方を映し出しています。
イギリス料理は決して地味なのではなく、日常と祝祭を丁寧につなぐ、奥行きのある食文化なのです。